再び「デフレの正体」について
先日、角川書店の「デフレの正体」を紹介した。実はその時点では後段の数十ページを読んでいなかったのだが、先ほど読み終えたので、もう一度、感想を述べる。
本書のテーマ「経済を動かしているのは、景気の波ではなくて人口の波、つまり生産年齢人口=現役世代の数だ」という彼の主張は疑う余地のないことだと思う。1990年頃からの景気の移り変わり、生産年齢人口、小売販売総額、GDPの推移のデータと分析で、見事に証明している。 ただ、最後に「補講」として「高齢者の激増に対応するための「船中八策」」と題して、「激増する高齢者に対してどのように医療福祉や生活の安定を維持していくのか」について、彼のビジョンを書いている。 彼の「船中八策」のタイトルを紹介すると、 1 高齢化社会における安心・安全の確保は第一に生活保護の充実で 2 年金から「生年別共済」への切り替えを 3 戦後の住宅供給と同じ考え方で進める医療福祉分野の供給増加 1は、基本的に首肯できるが、2、3は、あまりにも荒っぽく、しかも的外れだ。せっかく事実に基づいて日本経済の現状と未来を喝破したのに、この本の価値を下げかねない。 3は、結果的には、混合医療、混合介護の提案になっているのだが、今の医療、介護制度の現状を知らないで言っていると思わざるを得ない。 彼は、他の部分が「事実」の記述なのに対して、この章は個人的な意見を述べているのではないこと、「基本的な方向性」を示すものに過ぎず、現実の制度論ではなく「まずはビジョンとしての優劣という観点から、戦術論の袋小路にトラップされないご批判、ご意見をいただければ幸いです」と断わっているのだが、その「ビジョン」としてあまりにも稚拙と言わざるを得ない。 しかし、私は、それでもこの本の価値はいささかも目減りしないと思う。 彼は、現役世代が激減するこの国の処方箋として以下を提案している。 ①高齢富裕層から若者への所得移転を ②女性の就労と経営参加を当たり前に ③労働者ではなく外国人観光客・短期定住者の受け入れを 私は上記3点に基本的に同意する。特に、②こそが人口減少社会の最大の処方箋だと思う。子育て環境を整備し、出生率のアップを図ることが長期的には極めて重要だが、この10年~20年は、その効果は現れない。半数が就労していない現役世代の女性の就業促進を図ることこそが、もっとも有効な内需喚起策だ。 そのために、配偶者控除、厚生年金の第3号被保険者制度など、専業主婦優遇策を一刻も早く撤廃し、婚姻後の女性が働くことが当たり前の社会にしなければならないのだ。 しかし、現民主党政権、いやどの政権になっても、それを断行するとは到底思えず、この国は、人口減少への有力な対策をとれないまま、沈んでいくように思えてならない。 最後に、著者が消費税増税についてほとんど触れていないのが、この本の最大のウイークポイントであることを指摘しておきたい。
by toruikeda
| 2010-12-29 19:50
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